針灸、漢方による周期療法
不妊治療における「周期療法」というのをご存知でしょうか?
この考え方は、西洋医学の月経周期と東洋医学をミックスした考え方です。
月経周期はホルモン分泌によって卵巣と子宮のリズムが作られます。
これは自律神経がコントロールしているので、自然のリズムです。
自然のリズムが悪いことで生理痛、生理不順、そして不妊の原因になると考え、リズムを整えるように漢方薬や針灸を使って治療します。
月経周期を詳しく見ていきましょう。
月経周期には「卵巣周期」と「子宮周期」があります。
本来は別々の周期ですが、ホルモン分泌によりお互い調整し合うように存在しています。
卵巣周期は卵巣のみを見ています。
卵胞期、排卵期、黄体期の3つの周期に分かれます。
卵胞や卵子の発育を時系列でみたものです。
子宮周期は子宮のみを見ています。
月経期、増殖期、分泌期の3つの周期に分かれます。
子宮内膜がはがれ、厚くなる過程を見ています。
これが上手に連動しているので、一般的に月経周期は、卵巣周期と子宮周期を合わせ、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期として考えます。
稀ではありますが、生理中の性行為で妊娠したというもの。
これぞまさしく、卵巣と子宮がリンクしていないパターンです。
それぞれの働きを表にしてみました。
もう少し詳しく見ていきましょう。
このようにお互いの周期は複雑に絡み合っています。
月経周期をコントロールしているのはホルモンですが、ホルモンは脳からの指令をもって分泌されます。
それぞれのホルモンの働きを見ていきましょう。
妊娠に深く関わるホルモンです。
視床下部や下垂体は脳で、司令塔です。
司令塔より、ホルモンを使って指示を出します。
司令塔の指示(ホルモン)で部下である卵巣や子宮は働きます。
卵巣や子宮が正常でも、脳が異常では月経周期は狂います。
逆に、脳が正常でも、卵巣や子宮が異常でも月経周期が狂います。
月経周期は、脳、卵巣、子宮、そしてホルモンが重要なことがお判りいただけたと思います。
そしてホルモンをコントロールしているのが自律神経です。
自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」、「内臓求心性神経」の3種類があります。
ホルモン分泌には自律神経は欠かせません。
詳細はこちらをどうぞ。
さらに基本的なのは「ホルモンは血液中を流れ、目的地に注ぐ」という特徴です。
脳から出たホルモンは血液中を流れ、卵巣へ到達し、指令を伝えます。
卵巣から出たホルモンは血液中を流れ、子宮へ到達し、指令を伝えます。
どんなにホルモンが分泌していても、目的地に流れなければ意味がありません。
血流も大事なのは言うまでもありません。
この血流も自律神経が支配しています。
結果、月経周期を決定するにはいくつかのキーワードが必要ということです。
・脳、卵巣、子宮
・ホルモン
・自律神経
・血流
この4つが正常に働いていることが妊娠につながるのです。
では話を戻して、周期療法についてです。
周期療法は、月経周期を決める体内の状況を正常化するという方法です。
正常化とは、健康体という意味でもあります。
あまりにも漠然としていて、理解にしにくいかと思いますが、元気でなくてはなりません。
そして月経や排卵が滞りなく起こる必要があります。
しかし、人の身体は千差万別、個体差の塊です。
月経とて人それぞれのため、人と比較しても意味がありません。
そこで、個々のトラブルの診断が得意な東洋医学の出番です。
東洋医学的診断を始めましょう。
まずは東洋医学的に月経周期を理解する必要があります。
まずはこの図を見てください。
東洋医学の診断には
①八綱弁証
②気血津液弁証
③臓腑弁証
④経絡弁証など
があります。
「弁証」とは診断名の最後につけるもので、〇〇病みたいな意味合いです。
八綱弁証とは、病の性質を表すもの、つまり病状を表します。
詳しく見てみましょう。
八綱弁証は、陰と陽、表と裏、寒と熱、虚と実の8種類を組み合わせます。
どれも2つに分けていこうという陰陽論の考えから来ています。
この図を見たことがあるでしょうか?
「太極図」といいます。
1つの円の中には白と黒の2つが存在し、さらに白の中に黒、黒の中に白が存在しています。
人間で例えると、男性と女性で、男性の中の女性的側面、女性の中の男性的側面を表します。
人の身体で例えると、上半身と下半身、前面と後面、右と左と考えます。
ざっくり例を挙げてみますので参考にしてください。
陰陽論を何となく理解したところで、八綱弁証です。
まずは寒と熱です。
寒いか、暑いかを自覚症状、他覚症状で判断します。
虚と実は、弱っているか、強まっているか、正気の不足か邪気の旺盛かを判断します。
正気が不足していると症状は弱く、慢性的で、邪気が旺盛だと症状は強く、一過性です。
表と裏は、病自体が浅いところにあるのか、深いところにあるのかを判断します。
表裏、虚実、寒熱の判断によって、下記のような組み合わせができます。
続いて、気血津液弁証です。
気血津液は体内に流れる物質です。
東洋医学では、気血津液が身体を構成していると考え、これら3つの物質は、お互いに依存・抑制しあい、バランスを保ちながら身体(経絡)を流れています。
このバランス関係が崩れることにより、不調や病といった異常が起こります。
それぞれを見ていきましょう。
「気」とは、生命の根源的なエネルギーです。
この世に存在するすべてのもののうち、もっとも根源的なものを指し、「気」は、森の木にも、花にも、小鳥にも、道端にころがる小石にも宇宙の隅々にまで「気」が満ちています。
人間もこの宇宙の大自然の一要素であり、人間の根源となっているものも「気」です。
目には見えず測ることも難しいため、理解が難しいですが、感じることはできます。
気の種類には4つあります。
①自然界の気(外的環境と運動法則)
②人体生理の気(生理活動・働き)
③病邪の気(病気の原因)
④薬物の気(薬物の効能)
気にはたくさんの作用があります。
気はどのように作られているのでしょうか?
主な原料は3つ。
大気、水穀(食べ物)、両親(先天的なもの)です。
それを各種内臓によって作られます。
続いて、赤い色をした体液を総称して『血』といいます。
全身を栄養し潤す作用をもち、また精神活動を支える基礎物質でもあります。
精神活動を支える物質を東洋医学では「神」と呼びます。
津液は、人体中の正常な水液(唾液、胃液、涙、汗など)の総称です。
組織器官を栄養し、潤し、滑らかにする作用と、体液のバランスを維持作用があります。
気血津液弁証では気の病気、血の病気、津液の病気に分類されます。
気の病気には「気虚」、「気滞」、「気逆」があります。
気虚の特徴を上げます。
・わくわくするような元気がわいてこない
・疲れやすく、いつもだるさを感じている
・汗っかきで、自分だけ汗ばんでいることがある
・風邪をひきやすく、治りにくい
・少し動いただけで、息切れしやすい
・ぼぅ~っとしている時間が多い
・わりと落ち込みやすく傷つきやすいほうだ
・話し方が舌ったらずになってしまう
このような感じがあれば、あなたは「気虚証」かも知れません。
続いて気滞の特徴を上げます。
・イライラしやすく怒りっぽい
・おなかにガスがたまりやすい
・無意識でため息をつくことが多い
・のどに何かつまったような感じがある
・生理前にイライラしたり、うつになったりする
・自分に自信があり、行動力もあるほうだ
・潔癖で几帳面な部分がある
・つい一方的に話しをしてしまいがち
このような感じがあれば、あなたは「気滞証」かも知れません。
続いて気逆の特徴です。
気の循環が乱れ、下降しなければならなかった気が逆流し上昇してしまう状態を指します。
・頭痛がする
・めまいがする
・動悸がする
・激しい咳がでる
・呼吸困難がする
・吐気や嘔吐、ゲップがよく出る
このような感じがあれば、あなたは「気逆証」かもしれません。
血の病気には、「血虚」、「お血」があります。
血虚はいわゆる貧血のようなもので、その特徴を紹介します。
・髪が細くて傷みやすく、抜け毛も気になる
・眠りが浅く、夢をよく見る
・顔色が悪いといわれる
・話を聞きながら上の空になっていることがある
・月経量が少ない、または月経周期が長い
・話し方が心地なくなってしまう
・物静かでまじめなタイプだと思う
・不安感に襲われるときがある
このような感じがあれば、あなたは「血虚証」かもしれません。
お血は、血の塊をいい、その特徴を上げます。
・日焼けの跡が残りやすく、シミやそばかすが多い
・皮膚が乾燥して荒れやすく、ざらついている
・目の下にクマができやすい
・ケガや手術による古傷が痛むことがある
・月経痛が重く、月経血にレバーのような塊がある
・我慢強いほうだが、爆発してしまうことがある
・自分では神経質だと思っているが、周りからは神経質だとは思われていないようだ
・自分の中に引き金があって、その引き金を引くと話し方や行動がヒートアップしてしまうことがある
このような感じがあれば、あなたは「お血証」かもしれません。
最後に津液の病気には、「津液不足」と「痰湿」があります。
津液不足は、うるおい不足です、その特徴はこんな感じです。
・喉がかわきやすく、水分を欲する
・風邪をひいたあとに、から咳が残りやすい
・入浴後、皮膚がすぐに乾燥してかゆくなる
・便秘がちで、便がコロコロしている
・関節がスムーズに動かしづらい
・消極的で弱気なほうである
・突然キレてしまうことがある
・少し早口で、舌が回らなくなることがある
このような感じがあれば、あなたは「津液不足証」かもしれません。
痰湿は、余分な水が溜まっている、ようはむくみです。
その特徴を紹介します。
・体や手足が重く感じることが多く、むくみやすい
・雨の日や湿度の高い日に体調を崩しやすい
・大便が軟らかい
・花粉症や鼻炎など、鼻水が出やすい
・乗り物酔いしやすい
・どちらかというとわがままなほうだ
・自分で動くより、周りにお願いすることが多い
・周りに対して見栄をはってしまうことがある
このような感じであれば、あなたは「痰湿証」かもしれません。
このように症状の特徴から気血津液弁証をし、診断していきます。
最後に臓腑弁証です。
臓腑は五臓六腑のことですね。
内臓の診断を臓腑弁証と言います。
まずは、臓と腑の違いを知りましょう。
続いて、臓に属するのは、肝、心、脾、肺、腎、心包に分けられます。
腑に属するのは、胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦に分けられます。
五臓六腑以外に、奇恒の腑というものもあり、胆、脳、髄、骨、脈、女子胞があります。
五臓六腑の話をするにはどうしても五行論の話をしなくてはなりません。
木火土金水に世の中のすべて分けていこうという考え方です。
相生とは、親子関係を指し、木から火が生まれ、火から土が生まれ・・・という関係です。
相克とは、相手を抑制する関係を指し、木が土の栄養を吸い上げ、土は水をせき止め・・・と考えます。
こうして、五行がバランスを保ち、存在しているのか普通だと考えます。
このバランスが悪くなった時、体調が悪くなり、病となります。
それぞれの臓腑の機能を一覧にしてご紹介します。
これらの症状がある場合は、その臓腑のトラブルを考える必要があります。
続いて、五行論と五臓の関係、全身との関係を知る簡易的な表がありますのでご紹介します。
これを五行色体表といいます。
木の属性、火の属性・・・と縦で見ていきましょう。
木の属性には、肝、胆、目、爪、筋、涙・・・と関係性があるというわけです。
参考にしてみましょう。
3つの弁証(診断)が終わったところで最終的な弁証(診断)をしなくてはなりません。
手順のご紹介です。
八綱弁証+気血津液弁証+臓腑弁証=最終的弁証
では、臓腑弁証にそれぞれを載せていきましょう。
心と小腸の最終的弁証
肺と大腸の最終的弁証
脾と胃の最終的弁証
肝と胆の最終的弁証
腎と膀胱の最終的弁証
臓腑兼病病証(複数の臓腑に及ぶ場合)
おおよそ、このぐらいの種類の診断名があります。
ここまでざっくりではありますが、東洋医学の診断についてお話してきました。
ここまでわかったら、月経周期中に体内で何が起こっているのか、東洋医学的に考えていきます。
・月経期=行経期
衝脉、任脉、子宮の気血が空虚 → 腎気や天癸の作用も弱くなっていく
・卵胞期=経後期
腎気が盛んになり、気血が調い、血海が充実 → 腎気が上昇して生化がふたたび始まる
・排卵期=経間期
陰陽ともに生長して、腎気が充実して盛ん → 陽気が発動して陰精が排泄
・黄体期=経前期
腎気の主導の下、血量が調節され(肝)、生化が施され(脾)、子宮に関わる経脉が主られ(心)、衝脉・任脉の気血が充実 → 子宮の中に注がれる → 先天の腎精・後天の精血に充分養われ、気血が非常に盛になる
これを図にするとこんな感じです。
月経を陰陽、寒熱、虚実で考えた図です。
そこに東洋医学の治療法と薬膳、漢方を紹介します。
月経周期に体内で何が起こり、どういったアプローチをするべきか一目瞭然です。
これぞ、まさしく周期療法です。
ただし、何度も伝えていますが、私たちの身体は個人差の塊です。
あくまでベーシックな考え方ですので、臨機応変に対応する必要があります。
まずはご自身の月経周期に合わせてみてはいかがでしょうか?